将棋電王戦FINAL 感想

将棋電王戦FINALの観戦ルポです。


今年も将棋の熱い一ヶ月が終わった。
電王戦、人間vsCPUの戦い。
見るごとに何かを考えさせられる戦いの連続だった。

第2回電王戦は、どちらが勝つのか予想や見通しも立たず
常にハラハラドキドキした戦いだった。
そして棋士側が負けた時の狂騒感はすごかった。
棋士の存在意義を問われ、CPUはプロを超えたらしいと、
将棋を知らない人にも伝わるような結果になってしまった。

とはいえ、第2回のルールでは「CPU側が何でも有り」
状態だった故に、棋士側からしてみれば対策を立てられず、
ヒューマンエラーの危険性とプレッシャーのリスクだけを
背負っている状況だった。今となってはその厳しさがよく分かる。

第3回電王戦は、事前の貸し出しなどのルール改正によって、
「これは逆に棋士の圧勝で終わるだろう」と思っていた。
しかし、第1局で人間が負けた時点で、その認識が大甘だったと分かり、
全局終わって第2回以上に厳しい結果になった。
事前研究を重ねたとしても人間はまだ不利なのか、
あるいはCPUが完全にプロを上回ってしまったのか。



今年は最後の戦い。そして「人類、けじめの戦い」と題されて始まった。
棋士側は半端ではない覚悟で挑んでいるのは伝わっているし、
見る時のハラハラドキドキは変わらずあるが、
やはり第2回、第3回の結果は、大きな変化を与えた。
見る側にとって、プロが負けて批判するような話はほとんどなく、
どうか健闘して欲しい、勝ったらすごい。そんな感じである。
そして、それはプロにしてみれば楽にはなったかもしれないが、
同時に屈辱の境地ではないかと察する。

棋士側ができうる最大限に近い研究を行い、
それが自然な形で上手く表れたのが、第1局だった。
素人目では分からない程度のCPUの隙を丁寧に丁寧につき、
ちょっとずつ狂った磁場が最終的に大差となって押し切った。
そんな風に見えるプロ側の完勝だった。
こうなる確率は低いのかもしれないが、CPU相手でも
真正面から挑んで勝てることを知らしめた内容だったと、
解説や観戦記を加えた印象で感じる1局だった。



第2局は『事実は小説より奇なり』という幕切れだった。
人間vsCPUという異次元の真剣勝負で、
こんなつくられたドラマのような、いやつくられたドラマだったら
やりすぎに想える結末があるのか。

起こった出来事は将棋のルールも知らない人には
何が驚きなのかよく分からないかもしれないが、
ルールさえ知っていれば小学生でも一瞬で分かる様な事を
1秒間で数億手読むと言われるCPUが見逃して負けたのだ。
おまけにその後の解説で「そのまま普通に続けていても
勝敗は変わらなかっただろう」と解説されて鳥肌が立った。
バグをつくだけなら数手で終わらせる事が可能な中で、
自らのルールを徹底した上で、これほど注目される場で
涼しい顔でそれを遂行したのは、プロとはいえまだ22歳の若者である。


永瀬六段は格闘家の青木真也選手に似ている。
常に自分を高める事に余念がなく、発言もハッキリしている。
それでいて現代的な感覚もあって、昭和の根性論とは
違った意味で努力のむしで、勝負にはこだわりを持っている。
度を越えたストイックさと、それ以外に対する無関心さ、
そしてちょっとだけ不安にもなる発言の率直さ。
どこを切り取っても共通点があると思う。
もし二人の対談でもやったら、相応に面白いのではないだろうか。

何より似ていると思った理由は、対局後の会見で
「練習では1割程度しか勝てなかったが、本番でその1割を
持ってくるのは可能だと思った」と語った事だ。
これはJZカルバン戦前の煽りVTRで語った青木真也選手と、
ほぼ同意義の言葉だった。



ここまで2局は、人間側がリベンジしたと言える内容だった。
が、ここから2局はCPUが底力を出す。
第3局は、事前の練習では「5割以上勝てた」という話もあって、
楽観してたわけではないだろうが、本局では思うような局面にならず
プロ側が心理面を揺さぶられるような状況になって、
粘るのか粘らないのか葛藤する内に力尽きる形になった。
前評判では、第3局はプロ側の勝利が濃厚と見られる面もあったが、
やはりCPUに勝つのは、そんな簡単ではないことを
改めて認識させられる内容だったと思う。

第4局は、逆にソフト側の絶対的強さがお墨付きかつ、
プロ側がソフトには圧倒的不利と言われる後手番で、
正直言えば、「負けても仕方なし」の雰囲気が漂っていた。
研究手順に入ればどうなったかは分からないが、
本局は序盤に「プロは絶対指さない」とまで言われる
驚愕の手順でその研究を外され、以降は明確にミスが
あったわけでもないのに力負けするパターンだった。



さて、ここまで4局でプロ2勝、CPU2勝。
第5局で団体戦の結果が決まり、尚且つFinalの最終局。
事前のPVでは感動的な演出がされ、美しいシチュエーションと
舞台設定は整い、見る側の期待は最高潮に高まっていた。

10時の対局開始からプロ側が研究手順を見せる。
人間同士なら絶対に指さないであろう手でも、
CPU相手で勝つための最善手になるのであれば、
己の美学も捨てて勝ちに徹することの何が悪いのか。

はたして、勝負はわずか1時間足らずで決した。
簡単にいえば、プロの研究手順にCPUがハマり、
それを見たCPUの開発者がすぐに投了したのだ。
あまりに突然の結末に誰もが驚いたが、
勝負としてはありえる話で、私も格闘技の試合では、
これに類するような場面は何度か見てきた。


例えば、どんなに因縁があって試合前は喧嘩腰でも、
内容そのものはどうしようもない凡戦になったり。
例えば、どんなに感動的なクライマックスの期待感があっても、
アクシデントなどで至る前の消化不良に終わったり。
例えば、どんなに実力が拮抗して互いのレベルが高くても、
勝負が始まれば数秒であっけない決着がついたり。

真剣勝負とはそういうものである。
ましてや人間vsCPUという異形の戦いなのだから、
普通に期待して想像できるような事になるの方が不自然だ。
今回起こった事も、勝負の結末としては何の文句もない。
頭ではそう分かっていても、これだけの大舞台、
様々な思惑が絡まる場で、こんな結末を見せられると、
平静を保っていられるわけがないのも、また自然である。


後味が悪くなってしまったのは、終局後に敗者側が
勝者側の作戦に苦言を呈したことだった。
これも格闘技でよくある話だが、大抵は「負けたのが悪い」で終わる。
例外があるとすれば、勝者側のやり方があまりに汚く、
誰の賛同も得られない勝ち方ならば擁護されることもある。

今回の場合も意見は様々あるだろうが、少なくともプロ側の
作戦を否定する声は、ほとんどないと思われる。
それはPVの言葉にあったように電王戦は紛れもない真剣勝負で、
最善を尽くすとは、勝てる確率を1%でも高めるためにある。
面白さとは見る側の批評点であって、勝負している側にとっては
二の次だろう。少なくとも、プロ側が自らの美学を捨ててでも、
勝ちにいく姿勢を私は面白いと感じた。



これが純粋な人間vsCPUの果たしあいで、開発者の投了を
認めない方式であれば勝負は終わらなかった。
CPUはどれだけ不利になっても王が詰まされるまで思考を
やめずに指すだろうし、人間は圧倒的有利になりながらも、
油断や楽観との戦いが待っている。そこがまた面白いのだ。
それとは逆に、第1局のように負けると分かっていて
投了しない姿勢に批判が出てしまったのかもしれないが。

もしくはこの局面にならなかったらどうなっていたのか。
プロ側は研究手を外されて、自分の将棋をまったく指せず、
無残に負けて批判されるパターンだってあっただろう。
プロなのだからCPUに対して隙をつくなと言われたとして、
第2回、第3回の結果を見れば、CPUの隙をつかないことこそ、
愚かな作戦だと見る側には分かっているのだ。
それでも実際に実行して成功するには博打的な確立に頼り、
普通に勝負しては分が悪いと認めるリスペクトが必要なのだから、
その覚悟は計り知れないが。


プロ側が事前研究でこの手順を発見し、
勝つために選んだのは何の問題もないし、
開発者が見切りをつけて投了を選んだのも
ルール上に何の問題もない。後は見る側の受け取り方と、
イベント側の問題、そして開発者の真意次第である。
どうあれそれは『真剣勝負』という場で起きた事の
後付けにしかならないのだが。

Finalと謳った名場面を振り返ったエンディング映像の
最後に突然盛り込まれたのは、結末の不条理を煽るものだった。
どっちが勝っても負けても感動が待っていると想像できただろう、
将棋電王戦Finalの第5局。しかし、たった唯一かもしれない、
予定調和のハッピーエンドにならなかった幕切れ。
これこそが人間と人間が人生賭けて戦った生身の結末で、
本当にコントロールできないのはCPUではなく、
人間の深い思想と強い感情なのではないかと思う。



最後の団体戦全5局は、3対2でプロ棋士側の勝利。
それだけを述べれば、考えられるうる中で最も期待される
結果になったのだろう。しかし、そんな数字では
何も表現できないほどに密度と濃度が濃く、
あらゆる事を考えさせられるイベントであった。


お後が………

よろしくないっ………!!

だからこそ面白いっ!!!


どんな形であれば、電王戦が続くのであれば絶対に見たい。
見る側の気軽な思いはそれだけである。

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この記事へのコメント

  • SAMI

    本記事とは関係ない話で申し訳ないのですが、今日早売りララが手に入ったのですが…。「ヴァン騎士」文庫化だそうです。え、もうというのが第一印象でした。いずれはすると思ってましたがその前に「カラー完全収録な愛蔵版」だと思っていたので。購入するかどうか、私は描き下ろし要素があるかどうかかなぁ(お財布事情で(笑))六月十二日1・2巻発売だそうです。
    2015年04月23日 16:06
  • 月の騎士

    SAMIさんコメントありがとうございます。
    ヴァン騎士文庫化!いろんなことが
    浮かびますが、何はともあれネクストが続く事を
    楽しみにしたいと思います。書きおろし要素は
    期待したいですね。私も買うかどうかはまだ
    何とも言えませんけど動向を見守ります。
    情報ありがとうございました~。
    2015年04月26日 22:14

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