月の騎士の戯言

アクセスカウンタ

zoom RSS 戯言読書録 死と砂時計

<<   作成日時 : 2018/01/21 13:04   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 2 / トラックバック 0 / コメント 0

2018年の読書はじめに。





本書は何年か前の「このミス」で紹介(ベスト10入り)されており、
概要を読んで、その当時から興味を持っていた。
最近文庫化されて値下がりしたので、電子書籍で買って読んだ。
内容を簡単に解説する。

舞台は世界から集められた死刑囚を収監する『ジャリーミスタン終末監獄』。
収監された死刑囚は、何時告げられるとも分からない死刑執行を待つ身であり、
遅かれ、早かれ、処刑される運命からは絶対に逃れられない。
終末監獄で最も古株(死刑執行を免れ続けている)のシュルツ老を探偵役に、
最近収容されたアランという若者の死刑囚を補佐役に従え、事件解決へ導いていく。


舞台も登場人物もおしなべて外国の話ではあるが、日本人作者が人物の特徴や
状況を端的に描いているため、下手な日本が舞台で日本人しか出ない話よりも
読みにくさはまったく無く、状況を容易に想像できる。
否が応でも絶対に訪れる「死」からは逃れられない状況故の重苦しさの中にも、
どこか滑稽な様子や、監獄独特の秩序はあり、そこで過ごす人々にしてみれば
「自由と人権がなく囚われている」一点を除けば、地上とさほどは変わりない。

そして自由や人権を剥奪され囚われていても、登場人物は個々に考えを持ち、
何らかの目的を持って生きている。だから事件が起きるのだ。
起こる事件の内容も一見は怪奇的だが、真相と動機を辿れば、
理解に及ぶものであり、むしろ現実の一般社会で起きてしまう
「誰でも良かった」とか「イライラしていたから」のような動機の方が、
よほど無秩序であるとさえ感じる。


不可能な方法、不可解な状況に逆説を見立てて、
論理的に解決する様はチェスタトン調の本格ミステリと呼んで相違ないだろう。
しかし、本書の醍醐味は犯人や真相を探ることに労力を注ぐことよりも、
読者はこの終末監獄に同じ様に囚われ、事の顛末を見守っている立場を
疑似体験できることにある。自らの罪で収監され、迫りくる死を前にして、
残り僅かとなった日々の時間、死刑囚は何を目的に、どう生きるのかが克明に描かれている。

その一部始終を読み進めるにつれて、読者にとっても死は身近であることを感じ、
いつしか、自分も監獄に囚われている錯覚を得る。いかに自由に生きる人でも、
人間の行き着く先、最終的には「死」が待っていることは同じであるからこそ、
その感情はどんな善人だろうが悪人だろうが、共有できてしまうのだ。


それぞれの短編で感情移入と錯覚体験を起こさせておいて、
見事に最終章の「確定囚アランイシダの真相」で物語を収束されている。
ここで物語のテーマである迫りくる「死と時間」に主人公が向き合い、
隠されていた事実を知るのだ。短編毎の面白さと、全体を覆う謎の展開を
長編として読ませる手法は、ミステリ小説としての完成度を表している。

物語の性質上、おそらく続編は出ないだろうが、このようなテーマ、
舞台を描いた小説はまた読みたいと思えた。良質ミステリの傑作であった。

テーマ

注目テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 2
なるほど(納得、参考になった、ヘー)
ナイス

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
戯言読書録 死と砂時計 月の騎士の戯言/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる