月の騎士の戯言

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zoom RSS 戯言読書録 止まりだしたら走らない

<<   作成日時 : 2017/07/15 09:00  

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不思議だけど普遍的タイトル、普遍的だけど不思議な小説。





本小説は、東京都の路線を走る中央線に関わる時間を切り抜いて、
そこに居合わせた人々の日常・事情を淡々と描いた短編連作小説である。
作者の品田遊氏は「ダ・ヴィンチ・恐山」としてネット活動を認識しており、
なんとなく知人に似ている(マスクで顔を隠しているので雰囲気だけだが)
のもあって興味を持ったところ、Amazon(Kindle)で値引きセール
されていたので買って読んだ次第である。

こうして経緯を書くといろいろマニアックになってしまい
ターゲットは狭いように感じられるが、小説としては老若男女誰でも
幅広く気軽に読んで楽しめる本である。
何しろ作者はこんな記事を執筆してるだけあって、
読者としての目線で味わう小説を熟知しており、
文体や構成には読み手を退屈させない配慮が十分にされているのだ。
それらを含めて、まさに「電車内でちょっと読む」に最適な小説である。


短編と短編の間には、深い接点はない。
たまたま電車に居合わせた人達同士の素性など知るはずもない様に、
そこには独立した物語が繰り広げられている。
しかし、偶然のアクシデント的に微妙な繋がりを持っていることもある。
それを電車に居合わせた登場人物達は認識していなくとも、
俯瞰として見ている読者にとっては奇妙な関連性として見えてきたりする。
それに同じ時間に中央線に居合わせ、どこかの駅からどこかの駅へ
向かっている行為自体は共通しているのだから、乗客同士は
無自覚であっても、同じ時間の物語を共有しているとも言える。

これは電車に乗って通勤・通学している人の誰しもが、
考えなくても強制的に体験することだ。
同じ車両に乗っている人が定期を落としたら、それを拾って渡すことはあるだろう。
その瞬間だけでも、乗客同士の物語は偶然クロスしているのである。

それは電車内だけに限った話ではないが、身近にある名前も知らない人が
密室として接触する時間として興味深い。
実は個人的な思い出として、大学時代に中央線に毎日乗っていて、
本書に出てくる駅を利用していた時期があった。
だから余計に車内の様子は覚えていて、小説を読んでいると
通学していた日々を思い返し、ごくごく下らないエピソードが
記憶として蘇ってきた。中央線に乗ったことがある人はその思い出補正分だけ、
細かい描写のインスピレーションが高まって楽しめるだろう。


本小説の面白さとして、もう一つ特筆したい。

同じ大学に通い同じサークルに居ながらこれまであまり接点がなかった
先輩・後輩関係の新渡戸(先輩)と都築(後輩)が、
中央線に乗ってから目的地に着くまでの他愛ない会話が交わされる物語が、
本小説のメインストーリーラインである。

この話には、始まりとなるキッカケから、終わりとなるオチまで
しっかりとした起承転結がある。彼らの「何か」(「何か」が何であるかも含めて)
を推理してみると、二人の他愛ない会話への想像が広がっていく。
パート毎の会話には、特別に意味を持ってないように思えても最後まで読むと、
伏線が張ってあった事に気付き、ミステリの犯人を知ったような読後感を味わえるはずだ。


サブストーリーとなる中央線に乗り合わせた日々の物語は
一部分を切り取ってるだけで、明確なオチがなかったり、
その後の展開が気になるところで、唐突に終わったりしている。
これを小説の独立した短編として読むには、消化不良と言えるかもしれない。

が、中央線に関わる人の他愛ない日常として切り取って読めば、
その消化不良感は小説のリアリティである。落ちた定期券を偶然拾って
渡した人も渡された人も、互いにその後どうなったか知ることはないのだから。
本書は忠実に、当事者にとって中央線に関わる間に起きたことや考えたこと(多少の例外はあるが)
を描いているため、その時間外で起きた物語が語られないのも自然である。

短編の一つ一つは読者が実際に読んで、あれこれ深く考えてみたり
書かれていない部分を想像して楽しむのも良いだろう。
または電車内で一瞬だけ交わった他人の人生と同じく、
それはどうでもいいと暇を潰すために読み流すのでも良いだろう。
小説を読む手段の楽しみ方としては自由だ。
けれど、妙に気になり、妙に腑に落ちてしまうのは、小説として面白いからなのだろう。

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