月の騎士の戯言

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zoom RSS 戯言読書録 それでも町は廻っている

<<   作成日時 : 2017/06/17 11:31   >>

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通称「それ町」、何度でも何年後でも読み返したい静かなる名作。





あらすじの序文をWikiより。

嵐山歩鳥は、丸子商店街の喫茶店シーサイドで、ウェイトレスのアルバイトをする女子高校生。
ある日、マスターの磯端ウキが、店を繁盛させる秘策を思いつく。
それは、シーサイドを巷で流行っていると話題のメイド喫茶にすることだった。
しかし、関係者が誰もメイド喫茶を知らず、ウェイトレスがメイド服を着れば
メイド喫茶だろうという安易な考えの下、シーサイドはメイド喫茶として再スタートする。(以下略)



このあらすじはひとつも間違っていないが、ひとつも面白そうではない。
勘ぐり方によっては、美少女がメイド服を着て店を繁盛させようとする
流行りの日常ゆるゆる系萌え作品のように聞こえてしまう。
それ町は、そういうジャンルの漫画ではなく、あらすじはあってなきようなもので、
下町に住む人々の日常を様々な角度から切り取って描いた物語である。
この辺りは言葉で説明しても伝わりずらく、読んで理解してもらうしかない。

しかし、読んで世界観を一度理解してもらえれば、その居心地の良さに驚くだろう。
この町に起こる出来事を追体験している登場人物の一人のような感覚になったり、
あるいはこの世界全体を上から見下ろせる読者として、物語のピースとピースを
組み合わせて当てはめて楽しむ観測者にもなれる。
先が気になるから、続きを一気に読みたくなるというより、この世界に浸って
いたいから、読み始めたら抜け出せず、ふとした時に読み返してまた
浸りたくなる。そんな希有な世界観と雰囲気を持つ漫画である。


さらに本作品の特徴として、話数順が時系列順になっていないことがある。
例えば、8巻の60話は主人公歩鳥の高校2年生(春)時点を描いていて、
次の61話では、いきなり高校3年生(夏)を描き、62話でまた高校2年生(夏)を
描いている。しかも、この時系列シャッフルの仕掛けは連載中のしばらくは
明かされていなかったらしい。よって読者は読みながら、話の繋がりに多少の
違和感を感じる場面があっても、真相は推理して知る以外にない。

なぜ作者はこののような仕掛けをしたのか。ひとつは、描く側と読む側に
とって遊びを設けたと察する。もう一つは、それ町には初期の伏線が
後々になって回収される話が多くあり、それを自由に引き出したり、
隠すことをするためだろう。また逆に、答えだけを先に提示しておいて、
時間が経ってから、そこに至るまでの道筋を明かす手法にも使えている。
巨大なパズルのように、少しずつうっすらと部分的に形になっていく背景が、
やがて全体像が見えてきて、全巻を読み終えた時に完成できる仕組みだ。
それ町はミステリ漫画ではないが、このようなミステリ手法が凝らされ、
頭を使った楽しみ方ができるのである。

この手法を知った上で、時系列順にして読むことで、
様々なことが見えてきて面白い。
しかし、それはパズルを組み立て終えた人の特権だろうし、
そこだけに捉われて物語1話1話から目を離すのも勿体ない。
まずは単行本に掲載されている順に時系列を意識せず、
純粋に一つ一つの物語を独立して読むことをおススメしたい。
ふとした場面で物語の繋がりを認識し、いつの間にか、
同じ物語を共有したように、世界に溶け込んでいけるからである。
全部読み終えた後、しばらくしてまたそれ町を読みたくなった時、
改めて時系列順に読めば、二度楽しめて二度面白いはず。



最後に、特に好きだった・印象に残っている10話を挙げる。
尚、本作の珍しい趣向であった「掲載順と話数と時系列がバラバラ」に倣って、
ここで並べる話の順も時系列や巻数をバラバラにして紹介する。


・夢現小説

もし一つだけ好きな話を選べと言われれば、おそらくこれを選ぶ。
歩鳥が夢と現実の狭間の記憶で、静と会話するだけの話。
それだけなのに、それ町の重要なストーリーが秘められているし、
不思議に静かで緩やかな空気が全編に漂うのが心地よい。
そして何より、鰻が食べたくなる。


・学校迷宮案内

タケルが学校新聞をつくるにあたり、学校に潜む怪奇に挑む話。
小学生っぽい行動と思いきや、謎に対するアプローチの仕方は
さすが歩鳥の弟で、見事に筋道立てた推理を見せる。果たして謎の結末は……。
日常と非日常、ミステリとSF、ほのぼのとゾクゾクを織り交ぜた絶妙な話。


・それでも町は廻っている

作品タイトルにもなっている話。
あえて内容は書かないが、これを読めばタイトルの意味と
それ町に込められた世界観をまっすぐ感じられるだろう。


・エピローグ

そのタイトルの通り、エピローグの話。これもあえて内容は書かない。
ヒントは「エピローグ」であるが、「結末」とは言っていない。
言っていないがこれが結末であっても、それはそれで納得する。


・至福の店フォーエバー

あらすじに載せた内容に対するアンサーでもある話。
本話に出てくる見開きのシーンは、それ町の中でも青春の1ページとして
ベストに挙げたい爽やかな風が吹き、まさにフォーエバー。


・一ぱいのミシンそば

ちょっとしんみりしてしまう話。人にとって思い出とトラウマは表裏一体で、
それはつまり思い出せない理由には、何か思い出したくない理由があって
…という教訓でもある。


・歩く鳥

それ町の中で一番人気がある(公式ガイドブック廻覧板より)話。
その理由はよく分かる。少し切なく少し温かく、静かにだけど楽し気で、
落ち着けるのにワクワクする。「一ぱいのミシンそば」との繋がりはなく、
ある意味で逆の結末になるが、この話にも「そば」は出てくる。


・ナイトウォーカー

歩鳥とタケルが夜中にこっそり活動する話。
「夜中の町」「こっそり活動」「良い姉弟」の雰囲気が
存分に表現されており、どの視点から見ても良作。


・大人買い計画

「べちこ焼き」という謎のお菓子を探して旅する話。
話の筋はSFチックであるが、静の探偵譚として面白い。
そして、謎のお菓子と鰻が食べたくなる。


・闇に棲む声

とにかく真相はなんてことない話。
この話で、歩鳥が探偵(?)としての基礎と失敗を学ぶのだが、
この話と高校3年生になった歩鳥と比べると、成長を感じられることだろう。



この漫画を知らなかった人は、騙されるつもりで試しに読んで欲しい。
この世界に浸る間は、とてもいい時間を過ごせるはずだ。

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