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zoom RSS 少女漫画探訪 第30回:『薔薇王の葬列』と『死にたがりと雲雀』

<<   作成日時 : 2015/10/10 09:30   >>

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中世のダークファンタジーと江戸の人情時代劇です。


現代においてありきたりな日常を慢性的に過ごしていると
「生きようとすること」は希薄になっていきます。

当たり前のように学校に行ったり。
当たり前のように仕事に行ったり。
当たり前のように引きこもって1日終わったり。
当たり前のように三食食べて寝れたり。

それをかみしめて幸せだと感じることもなく、
学校に行ったり、仕事に行くことはむしろ苦痛だと
思うことの方が多い。それが普通じゃないでしょうか。


が、ふとしたこと、例えば凄惨な事件だったり、自然災害だったりを
ニュースなどで目にすると、途端に平和が愛おしく思えたりします。
もしかしたら自分に、もしくは近しい人に、突然逃れようがない
不幸が降りかかるかもしれない。その可能性に気付くと、
苦痛だったり退屈だったはずの生活がずっと続くことを望む。
某漫画の「なんでもない日おめでとう!」と一緒の心境ですね。

でもまた、そう思うのも一瞬でしばらくすると、
なんでもない日は退屈で、不幸が降りかかるかもしれない
可能性なんて忘れて、つまらない事にブーブー言いたくなります。
ようはまあ、人生なんてその繰り返しなのかもしれません。



少女漫画の感想になんて寂れた話してんだ!と思われたでしょうが、
今回紹介するのは「生きようとすること」を強く感じる2作品です。
生きようとしなくても、現代の平和で退屈な日常を過ごせている人には
フィクションとはいえ、ちょっとした痛みを味わせてくれることでしょう。



まずは先攻、中世が舞台のダークファンタジー。




wikiがまだ存在してないので、あらすじを簡単に。

中世のイングランドで王位争奪を繰り返す薔薇戦争時代。
白薔薇家の三男として生まれたリチャードの体には
「ある秘密」があった。戦争の最中、誰よりも敬愛する
父が王になることを願い、日々鍛錬を重ねるリチャードだが、
自分の身体へのコンプレックスと悲しい戦争によって
心を蝕まれていく。そして父が赤薔薇の者に処刑され――。



オススメで教えていただいた作品です。
あらすじに書いてる通りで、話はムチャクチャ重たいです。
目に見えるエゲツナイ展開も遠慮なくありますが、
それ以上に精神的に楽させてくれないような描写が続きます。
読んだのは2巻までながら、この先もどう考えても
明るい物語になりようがない復讐の連鎖が待っていそう。
最後もぶっちゃけハッピーエンドではないのでしょう。

マイナーな題材ながら、世界観は女性好みと思います。
内容は一旦置いといて、絵柄や雰囲気的には
ヴァンパイア騎士に似た仄暗さと美しさを持っています。
物語の内容にハマるかは極端の分かれてしまうので、
あらすじ読んで興味持てる人にはオススメします。
これらの点は、後ほど紹介する作品とは真逆かもしれません。


あまりにも世界と出来事が現代日本とは遠く離れ過ぎているので、
これを読んで「今をもっとがんばらなきゃ!」とか、
身近に置き換えて思うには無理があります。
第一、そういう話じゃないし。

父が生きている間は、唯一愛情を与えてくれたその存在に
すべての身を捧げる思いを持ち、助けるためには悪行にも手を染める。
死んでしまってからは復讐の鬼として、敵をひたすら斬って捨てること
それのみを繰り返し、ただひたすらに血を求めて彷徨う。
絶望の中に生きようとするリチャードには、善悪や共感を超えて
とてつもないエネルギーを感じます。

ショッキングだったのは、刎ねられた父親の首を見つけた
リチャードは絶望して泣き崩れるのかと思いきや、
生きてる姿をやっと探し出して見つけたような様子で、
その首に口くちづけするのです。ここは絶望を超えて、
美しさとグロテスクが同居する名シーンです。


リチャードに限らず、出てくる登場人物は全員が希望の光から
一転して絶望の淵に落とされる危険が常にある世界です。
たとえ死が目の前にあったとしても、目的に向かう瞬間は
「生きようとすること」に必死であると思うのです。



後攻は、江戸が舞台の人情時代劇です。




表紙の雰囲気から『薔薇王の葬列』に比べれば、
さぞや感動するお話で…と思うことなかれ、ある意味では
別世界のファンタジーとして架空に捉えられる物語よりも、
こちらの方が身近な切なさを感じるかもしれません。


こちらもwikiが存在しないので、勝手にあらすじを。

江戸で一人の浪人・朽木が寺子屋を開いた。
無理やり子供三人を生徒として迎え入れるが、
その一人の雲雀は家庭に問題を抱えていた。
そして町で起きた強盗殺人の犯人が父親だと
悟った雲雀は、朽木に罪を着せようとする――


作者の方があとがきで書いてますが、
担当者に「時代劇は当たらないから」と言われて、
連載が成立するまでとても難儀した様子です。
やはりどちらかと言えば『薔薇王の葬列』のような
美しい中世の方が人気は出やすいのでしょう。
あらすじだけを比較すれば、こちらの方を読みたいと思う人が
多いんじゃないかと察するのですけど。
絵柄もほんわかしているし何もかも対極的です。

1巻の最初にいきなりのクライマックスな展開があって、
それで一気に惹きこまれた後、この後は雲雀が心を開いていく
過程がゆるゆると描かれていくのかな…と思わせておいて、
そんな単純ではなく2巻でまたズバッと斬り込んできます。
子供の残酷さだったり、大人の狡猾さだったり、
雲雀には「父親の罪」が嫌でも付きまとい、逃げてしまえばいいのに
背負おうとしてしまう危うさがある。雲雀への言葉にも夢のある優しさより、
現実を見通した厳しさがあったりして、甘い話ではないのです。


人情劇なので、話のオチとして救いのないものではありません。
でも万々歳のハッピーエンドではないし、絵はとても親しみあるのに、
漂ってる空気はホッと一息つかせるような安心感を描くより、
穏やかな中にあるどことないもの悲しさを感じるから不思議です。
雰囲気は学園ベビーシッターズに近いですが、より大人向けです。

タイトルの「死にたがり」は朽木のことを指しているのか、
2巻を読んだまででは判然としません。
今のところは、朽木の存在が雲雀の支えになっていますが、
暗に示されている事から察すると、そんな都合いい話じゃないのかも。
過去にあった何かについて今後語られて分かるのでしょう。



『薔薇王の葬列』のリチャードも、『死にたがりと雲雀』の雲雀も、
父親を失ってからの生き方を問われる物語です。
その過程や生き方の目指す方向は、全然違うようでいて、
根っこの部分はどこか似ている気がします。
良いとか悪いとかではなく、現代の日本には身近にない、
明日を生きることへの濃さがどちらにもあって、胸を締め付けられます。

最後に。「生きることを問われてもそんなの知らんよ。
もっと明るく楽しいハッピーな漫画が読みたいんだわ」
と思われた方は、それもまた立派なご意見だと思います。

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