月の騎士の戯言

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zoom RSS 福本漫画考察 〜孤独な奇才の物語〜 

<<   作成日時 : 2009/10/25 06:06   >>

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福本伸行さん特集本に合わせて、福本伸行漫画を好き勝手語ります。


カイジ映画化により、本屋でカイジの黙示録が平積みされている光景を目にします。
映画に関しては、見てもいないのに批判するのもどうかと思うのですが、
一つだけ、たぶんカイジフリークの方なら誰もが思っただろうことを、あえて書きます。
「カイジがイケメンで良い男過ぎる」だろと。

カイジからダメ人間のオーラが全然しないのです。
おそらく、俳優さんはダメ人間の演技はされてると思われますが、たぶんそれを見ても、
「一時的に今はどん底に居るけど、やればできる奴なんだろうな」と感じそうです。
確かデスノートのキラも演じてた方ですし、ルックスとイメージの影響もあることは事実ですが、
極論を言えば、冴えないルックスの俳優さんがカイジを演じたとしても、
その人に「俳優として成功している」印象があれば、やはり違和感を感じるかもしれません。


今から7年ほど前に、初めてカイジを読んで衝撃を受けたことを思い出します。
何しろ、最初から最後まで読んでも、主人公のカイジは全く報われず、
友情・努力・勝利な少年漫画に染まっていた、私の漫画脳の既成概念が破られました。
そこに感じたのは、ヒーローへの憧れではなく、「社会的ダメ人間への共感」です。
漫画を読んだ当時も今も、ギャンブルはやったことないですし、お金に困ってるわけでもないですが、
カイジの外面の暗い雰囲気や、内面のダメな部分を自分に照らし合わせると、
とても他人事だとは思えず、作品のテイストと内容の面白さもあって強烈に惹かれました。

以来、私は福本漫画の虜となり、アカギ、天、黒沢、涯、零、銀と金なども買って読み漁りました。
福本漫画と聞いて、ある人は「ああ、あのギャンブル漫画ね」と思うでしょうし、
ある人は「ざわ・・・ざわ・・・っていう擬音の奴でしょ?」と思うでしょうし、
またある人は「絵が下手、女キャラがいない、話が長すぎ」と思うかもしれません。
私にとっては、タイトルのように「孤独な奇才の物語」が福本漫画のテーマとして浮かびます。

カイジもアカギも黒沢も、紛れもなく平凡を超えた『奇才』を持ちながら、
ある部分(抽象的に言うなら一般社会で生活する上で重要なこと)は欠落しています。
カイジは、ここ一番の理で戦う逆境ギャンブル力は神懸ってますが、
普段は社交性も計画性もないダメ人間です。アカギは麻雀などの勝負事の才能は、
天才を超えて悪魔染みていますが、人間としての心とバランスは持っていません。
黒沢は、カイジやアカギにはない日常を内省し、周りに人が集う空気も持ってますが、
世間に「負け犬」と称され、自己の後悔もある人生を歩んできた、憧れも抱かれない中年親父です。

3者(他の福本漫画の主人公の多くにも)に共通している点は、
基本的に孤独であって、それを気にしてなかったり気にしていたり、
孤独でありたいながら慕われかけたり、裏切られたり、一人を貫いたりと様々ですが、
最終的には、決断して奮い立たせるのは自分の内面からであって、他人ではありません。
だからこそ、福本漫画はいかなる場面でも、中心はその人物の深層心理であって、
対人との戦いを超えて、最後は自分の内面との戦いに帰結するのだと思います。
「孤独」とは、外面的な交友関係もそうですが、内面的な精神にも該当すると思います。



以上の様に、私も福本漫画をそれなり(一般の人からすると変態?)に語れるつもりですが、
福本漫画特集と題して、様々なコラムニストや論客が、福本漫画に関して、
論じたり評している特集本が出版されまして、その濃密な内容には圧倒されました。


画像



非常に難解な考察から、割とストレートに分かりやすい感想まで多種多様
(総じて、福本漫画の知識を持っていて、ある程度文章に読みなれてないと、
サクサク読み進むのは難しいかも)ですが、コラムの内容を大別してみると、
アカギや銀などの孤高の天才論と、カイジや黒沢への孤低の変人論と、
福本漫画の一部、全体(または福本伸行氏)論に分かれていると思います。

個人的に印象に残った、面白かったコラムを3つ挙げるとすれば、
一つ目は『“モテない男”にも五分の魂』です。
当記事でも最初に書いた「映画版のカイジは美形過ぎる」と同様の指摘から始まり、
福本漫画のキャラ(主人公)が、いかにモテない象徴であるか、
そしてそんな福本漫画でこそ、恋愛を主軸とした物語を描いてみて欲しいという、
厚かましいながら、私も似たようなことを考えたり期待していたので共感しました。

二つ目は、『心と世界が交互するざわめき』です。
内容は、福本漫画に欠かせない「ざわ・・・ざわ・・・」が、単なる場の喧騒から、
心のざわめきに進化するまでの過程と、そこに含まれる意味や情景を、
ニコニコ動画などの多文化の視点からも考察していて、面白く興味深かったです。

三つ目は、『ゆがみの図像学』です。
コラム内一文に、カイジの登場人物である坂崎がパチンコで大敗する様子について、
「汚いおっさんがパチンコでボロ負けする姿を読者が求めるのは福本漫画ぐらい」
という様な内容があって、実に納得でした。そうなのです。こと福本漫画に置いては、
女性のシャワーシーンよりも、こういった心を抉る狂気の沙汰な描写こそが、
サービスシーンに該当するかもしれません。漫画も歪んでりゃ読者も歪んでます(笑)


他にも、福本伸行氏と大槻ケンヂ氏の対談や、映画カイジの脚本を担当していたのが、
実は女性の方であり、その方の談話(及び一般女性から見たカイジ論)も興味深いです。
福本漫画好きで考察好きな方は、一読して損は無いと思いますので是非!
一気に読むのはなかなか厳しいので、1日1コラムでも読み進めると楽しめますよ。



おまけ:いけないカッちゃん感想

最後におまけとして、同誌に特別掲載されていた福本伸行氏の初期掲載漫画、
『いけないかっちゃん』の感想を書きたいと思います。

この作品、今の福本漫画を基準に考えると、ありえない作風・内容です。
ギャンブル・金・孤独といった現在の福本作品らしい要素は皆無ですし、
「孤独な奇才の物語」でもなくて、なんと青春人情活劇的なラブストーリーです。

ぶっちゃけ言えば、ストーリーや展開が面白いとか良く出来ているとは全然思いませんが、
福本伸行氏が描いたこと、現状の福本漫画と照らし合わせて見ると、違和感を楽しめました。
おそらく同じストーリー展開でも、これをあだち充氏が描いたら、
安心して読める青春漫画として完成できるのでしょうが、福本氏が描くとあら不思議。
何から何まで無理して描かれているような、ぎこちない印象を受けてしまいます。
いしかわじゅん氏のコラムのように、「この作家は人気出ない」と思われても仕方無しです。

逆に考えれば、とてもこんな物語を描いていた人が、「金は命より重い・・・!」などの、
心を抉る言葉が出る漫画でヒットするとは、当時は想像できなかったのでしょうね。
あえて言えば、作品から滲み出る泥臭さと、タイトルは爽やかな感じなのに、
主人公(カッちゃん)に爽やさが全然無くて、一匹狼チックで空回りしてるところは、
福本漫画らしいといえばらしいですし、最強伝説黒沢なんかはこういう作品を描いた経験を基に、
恋愛要素ではなく、コメディ・ギャグ要素を重視して出来た作品になるかもしれません。

私も福本漫画ファンを自認してはいましたが、こういった初期の短編作品には、
あまり手を出していなかったので、また機会があれば「熱いぜ辺ちゃん」などの、
人情がテーマになっている福本漫画にも手を出してみようと思います。
これまで知らなかった、また新しい福本漫画の世界が開けるかもしれません。



以上、長くなりましたが、久々の真面目な福本漫画論でした。
次は再開したらしいカイジ新章の第1巻が出た時にでも、感想を書きたいです。

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